0014:FF11小説『Intermisson VII ~ 世界の片隅で愛を叫ぶ獣』

草案3日。執筆3時間の愛の劇場。FF11小説久しぶり。

今回はへぽんさんとの何気ない会話から生まれたものです。
【ありがとう】【ありがとう】

ノリ的には、儀典世界図絵のようでした。
久しぶりに書くと、吟鳥龍もなかなか面白い。まだまだイケるね。



『Intermisson VII ~ 世界の片隅で愛を叫ぶ獣』

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「貴様ら、今すぐ中央大陸へ引き返すぞ」
 もう幾度目となるのか。麗らかな午後の茶屋シャララトにて。
 衛生帽子とエプロンで武装を固めたヤグード族ズー・ブシュ・ザ・サイレントは何の前触れもなく、唐突にそのように言い放った。いつものように談笑していたヒューム族の吟遊詩人シヴィと、今は人間に擬態している真龍族のセルリアン――本名はソレイユ――は、胡乱げに獣人をねめつけた。
「一体、何の話よ?」
 シヴィがややうんざりな口調で問い返す。
「愚か者め。貴様は冒険者であろう。冒険者たるもの、世の中の時勢には常に気を配り続けるものだぞ。昨夜、とんでもないことが中央大陸で起こったのだぞ。知らんのか」
「とんでもないこと?」
 セルリアンが、有り体に言ってシヴィと同じ口調で問い返す。
「そうだ。これにより、本日から約百七十五日間。ヴァナ・ディールにおいて、未曾有の食糧危機が懸念されるのだッ!」
 ばさっと、テーブルの上に叩き付けられる今日付けの新聞には、今も中央大陸で飽きもせず続けられているコンクェストの結果が載せられていた。
 コンクェストとは、サンドリア王国、バストゥーク共和国、ウィンダス連邦の三国による中央大陸の領土争いを意味する。冒険者の功績によって、ヴァナ・ディールでは、百七十五日毎に各リージョンの支配国が更新されることになっており、昨夜、新しい支配域が決定したようだった。
 支配域を伸ばすことによるメリット、デメリットは、冒険者の利益不利益にも直結するところでけっして無視できないものではあるのだが、
「今、アトルガンでお茶飲んでるうちらには、正直関係ないじゃん」
 ――ということだ。アトルガン皇国があるエラジア大陸はコンクェストの対象外地域である。今回はどこの国が首位の取ったのか程度の興味はあっても、コンクェストによる恩恵などは一切ない。
「貴様という女はァ……イチから十まで懇切丁寧に解説してやらんと分からんのかッ! 貴様の脳みそはチゴーかッ!」
「……なんで、アンタにそこまで言われないといけないわけ……?」
 特異な光景ではあった。
 シヴィに惚れているズー・ブシュがここまで取り乱し、罵声を浴びせる様は昨今なかなか見ることの出来なかったところである。ぶるぶると震えている彼女の管楽器が今にも唸りを上げそうだったが、そのことがセルリアンの興味を誘ったらしい。
「まぁまぁ……で、結局何が言いたいんだ。鳥」
「見ろッ!」
 びしっ、と。
 ヤグードがその指を突きつけた先、無論、新聞の上なのだが、そこには中央大陸の略地図が描かれて、今回の支配域が記載されている。更によく見ると、ヤグードの指はミンダルシア大陸のコルシュシュ地方を指していた。シヴィの故郷であるウィンダス連邦から程近い、港町マウラのある地域。
「うん? 獣人支配か……」
 冒険者による活躍が今ひとつだった地域は獣人の勢力が強まり、その結果、三国のどこにも支配されることなく、獣人支配として扱われることがままあった。中央大陸の冒険者が刺激を求めて、このアトルガン皇国へ大量移入している昨今、中央大陸の地域が獣人支配になるケースも少なくはなかったが……
「獣人支配に落ちると、その地域の特産物が入荷し辛くなるのだ! この意味は分かるだろう――大変な食糧危機を迎えることになるのだ!」
「あー、なるほどねー」
「よって、我はコルシュシュ殲滅作戦を提案するッ!」
「知るかァァァァ――ッ!」
 抑えていたシヴィの管楽器が唸りを上げて、スー・ブシュのこめかみに突き刺さった。
 つまりは、ヤグードチェリーとブブリムグレープの話らしい。


 アルザビコーヒー計画なるものがある。
 その計画の名称自体はズー・ブシュの中でしか通用しないものではあったが、ズー・ブシュがアルバイトする茶屋シャララトで商品としているアルザビコーヒー、これをシヴィに飲ませて美味いと言わしめることが出来れば、彼女と交際できるという約束があるのだ。
 そして、そのアルザビコーヒーの隠し味として、ヤグードドリンクは必須。ヤグードドリンクの材料となるヤグードチェリーとブブリムグレープが入手困難となった日には、アルザビコーヒー計画が頓挫してしまう。ズー・ブシュの思惑はそこにあった。
 つまり、
「コルシュシュが獣人支配になるなど持っての外なのだッ!」
 喚きながら、マウラの港に降り立つズー・ブシュ。もはや自分が獣人であることを忘れているかの物言いであるが、愛に性別も種族も関係ないということなのだろう。
 アトルガンほどの大都市になれば瑣末なことなのかもしれないが、さすがに一地方ともなれば、ヤグードは目立つらしい。マウラ住民の視線が気に触る。ここがミンダルシア大陸であることも拍車をかけているのかもしれない。
 人目を憚るようにマウラを後にし、ブブリム半島に出たズー・ブシュはとりあえずどうしたものかと思案に暮れた。
「獣人……獣人支配、か……この地の獣人どもを根絶やしにすることが一番手っ取り早いと言えるが……」
 この地の雑魚どもを一蹴することは赤子の手を捻るより容易いが、この地を徘徊する同胞やゴブリン族を探し出して、逐一そんなことをしていては次回のコンクェストにさえ間に合わない。
 アルザビ-マウラ間の汽船の中で必死にプランを練ったズー・ブシュではあるが、結局無策のままここまで来てしまった。
「とはいえ」
 ズー・ブシュが視線を向けた先には、駆け出しの冒険者を追い掛け回すゴブリンの姿があった。よくウィンダス出身の冒険者で、サルタバルタ平原やタロンギ大渓谷を慣らした者が次に訪れるこの土地ではあるが、それらと同じように考えていては、一回り強くなった獣人の前にあのような醜態を晒すことになる。
 その冒険者――タルタル族がズー・ブシュの姿を見咎めたかどうかは知らないが、どの道、マウラへ逃げ込むにはズー・ブシュの横をすり抜けなければならない。意を決した彼が通り過ぎた後、ズー・ブシュはそっと足を横に突き出して、ゴブリンの足を引っ掛け倒した。
 気配でタルタル族が振り返ってきたのが分かる。まさか、ヤグードに助けられるとは夢にも思っていなかったのだろうが、とにかくズー・ブシュは手を振ってさっさとマウラへ行けと促した。そして、足元に転がるゴブリン族に視線を落とす。
「お前! ヤグード、何する!」
「非常に残念なことだが……我が野望成就のため、金輪際このコルシュシュで貴様ら獣人をのさばらせることは出来んのだ」
「なんだと、ヤグード。オレタチ獣人。人間、敵!」
 身軽に起き上がってきたゴブリンの突進をかわし、すれ違い様、握り込んだ右拳をずんぐりした胴体に叩き込む。肺から一斉に空気を吐き出し、再びゴブリン族は地面に這い蹲った。のに、
「……ぐぶ……負ける……負け、ないッ!」
 素早く立ち上がっては、咆哮する。
 ズー・ブシュは葬るつもりでその一撃を放ったのだ。こんな辺境の地の名前も知らないゴブリンに耐えられたとあっては、いささかプライドも傷つく。
「ドラックロックス……オレ、キミのため、負けないッ!」
「その者は……」
 フフフ、と、ある種、壮絶なまでの笑みを浮かべ、ゴブリンは懐から一枚の紙切れを取り出した。
「ドラックロックス。ゴブリンの中のゴブリン、オレたちのアイドル、絶世の美女……無類の、タルタルの人肉好き」
 そこには、紙切れの持ち主と瓜二つのゴブリンマスクを被ったゴブリンの似顔絵が描かれてあったが、とりあえずそれが絶世の美女らしい。ゴブリンの美的感覚は理解できない。そもそもマスクをしていては、素顔が見えないではないか。
 だが――
「よかろう。互いに譲れぬものがあるというのだな……」
 摺り足で腰を落とし、構えを取るズー・ブシュ。以前のズー・ブシュであれば、それこそ理解できないものであっただろうが、誰かのため、何かのために意を決した者は想像以上のことを仕掛けてくる。けして、侮るべき相手ではない。ゴブリンもまたズー・ブシュの背後に浮かぶ絶対的な己の死に怯むことなく、剣を片手に真っ直ぐと向き合う。
 このような大陸の隅っこで、同じ獣人が愛を叫び、争うなどと、大いなる父プロマシアが知ったらどのように思うだろうか。もとより袂を分かった身。どのように思おうと勝手だが、しかし、笑うのであれば、許さない。我々は譲れぬ信念を抱いて、今、こうして相対している。世界はいつだって、愛を求め、敬い、時として、畏怖する。それが、何より強いもの、絆であると知っているから。
 そう。
「いざ――」
 ズー・ブシュがこの世で一番強い愛を獲得するため、コルシュシュ地方には、コンクェスト政策の下、人間国家の支配が必要なのだ。
 そこに、ヤグードチェリーとブブリムグレープがあるから。


 ズー・ブシュ・ザ・サイレントが真実の愛のようなものに目覚め始めたその頃、シヴィのモグハウスには何かしらの種が埋められた大量の植木鉢と色とりどりの様々なクリスタルが届けられていた。
「どーゆーことよ、これ……」
 呻きながら、シヴィは昨晩のことを思い出していた。
「我がコルシュシュを取り戻す旅に出かける。危険な旅だ。我が戻らないことも考えられるが――その間、我の栽培の面倒を見ていて欲しい」
 とかなんとか。
 まるで後生の別れのように、クソ真面目に語られたことを。
「どうしろってのよ……ああ、これで、ヤグードチェリーとブブリムグレープ栽培してたってこと?」
 そこにやって来たのは、セルリアンだった。正直なところ、ノックもなしに勝手に女性の部屋に入ってくるなとは思うが、相手がセルリアンだし許せてしまう。
「あら、おはよう。セル……って、どしたの?」
 部屋の入り口で、呆然と突っ立っていた彼は、やがて怒りに打ち震えるように、がくがくと全身を振るわせ始めた。
「な、なんだ……シヴィ、それはッ!」
「へ? ああ、昨日ズー・ブシュの奴が――」
「く、口ではなんだかんだ言っておきながら、奴のためにヤグードチェリーとブブリムグレープをこっそり栽培していたのかッ!」
「送りつけて来た植木鉢で、って」
「あ、あああぁ、そうさ。べ、別に俺に君を縛る権利はないからね、でも、だからって、そんな……と、鳥のために、くぅッ!」
「あの、セル――?」
 最後は言葉にならず、セルリアンは無念に唇を歪めながら、シヴィの部屋を飛び出していってしまった。
「ちょっと、なに分かりにくい勘違いしてるのよッ!」


 その後、長期に渡って、ブブリム地方では愛とヤグードチェリーとブブリムグレープを叫ぶヤグード族と、愛とタルタル族の肉を叫ぶゴブリン族の一騎打ちが繰り広げられた。人知を超えたその凄まじいまでの戦いは人々を、獣人を遠ざけ、結果的にコルシュシュ地方の治安は安定を取り戻すことになる。
 百七十五日後、コルシュシュ地方が無事にミンダルシア大陸を支配するウィンダス連邦に返還された時、二人の姿は忽然と消え去ったが、その行方はようとして知れず、ヤグード族のほうは非常によく似た者が近東でヒューム族の吟遊詩人にどつき回されていたという情報が多数寄せられたが、確かめる術はなく、また確かめたいと思う者もなく、やがて愛を叫んだ獣人の物語は風化していくことになった。

この記事へのコメント

hepon
2009年09月30日 09:13
冒険活劇ハートフルファンタジー キター!w

まさか何気ない会話からかのようなストーリーは生まれようとは想像だにしておりませんでした!

やっぱりこの3人のハナシはおもしろいデス。
オレたちのアイドルのくだりでフイタw
最後のセルリアンもイイ味だしてますねw

こちらこそ【ありがとう。】

今後も期待しております★★★

hepon
http://hepppy.com/sns/
ねこるせ屋
2009年09月30日 10:29
ひさびさのズーさん!!ラヴ!!
ほんとになんだろうもう可愛いなズーさん・・・
嫁にこないかなズーさん・・・

お仕事とか大変そうですけれど、お体はくれぐれもご自愛くださいね!
dai
2009年10月01日 22:42
ゴブリンと戦闘時のズーブシュの格好はコック帽にエプロンと脳内変換してヨミマシタ。

そろそろあれですね。
ズーブシュに惚れるキャラクターでも出て欲しいです(;゜д゜)
しび
2009年10月06日 12:20
■へぽんさん
うそっこ予告がききましたナー。

あれ書いた帰り道にぴぴんと草案が浮かんでたw

今後……今後は、coming soonです。
番外編のノリ的なモノが来る予定です。

こうご期待。

■ねこるせやさん
あくまで、ヨメなのか。ズーさん。

ズーさんは次回のお話でも活躍予定ですです。

■daiさん
【えっ!?】

脳内変換というか、そのつもりでした。
ああ、マウラに降り立ってから、
その描写がなかったね。無念。

>ズーブシュに惚れるキャラクター
その発想は想定外。
Raphis
2010年02月24日 10:52
ヽ(´ー`)ノ わーい

やっぱり面白い!
セルの出て行くとこで目を細めて笑ってしまった(笑)
ズーはエプロンもしてたのですね。
私の中ではちゃんとかぶりきれてない帽子だけのイメージでした(*´д`*)

次回作も楽しみにしてます!
しび
2010年03月08日 11:55
いらっしゃいましっ。

セルは、そう。
最近ちょっと変な方向へ開眼しつつあります。
困ったことにそれが面白いという作者もいます。

ズーさんはもちろん、帽子とエプロンセットですよっ!

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