0016:FF11小説『とこしえのはなよめ』 1.世界で唯一のもの

 はるか昔、偉大なる初代星の神子が長き苦難の末、ここサルタバルタの地を見出された時、このようにおっしゃいました。

 今、我々は互いに知らぬ顔の者はおりません。ですが、いずれここには、小さな村が生まれ、賑やかな街へと育ち、大きな国ができることでしょう。互いに名を知らぬ者も、たくさんできることでしょう。でも、決して忘れないでください。

 夜空を見上げることを。

 星々のひとつひとつが大いなる天空を形づくっているように、私たちひとりひとりにも必ず意味があることを。皆が出会いを大切にし、互いを愛している限り、この地は祝福と加護を受けられるのです、と。

 出会いは星の運命ですが、愛を成就させるためには試練が必要です。星の運命によって出会いし、このふたりも、今宵その試練を受けます。
 ここに集まった我らは、その証人となるのです――


「はふぅ……」
 机に突っ伏したまま、彼女は大げさな溜め息を吐き出した。光の加減によっては、翡翠に見えることもある見事な漆黒の髪を撒き散らし、全力でテーブルに寄り掛かる。
「なによ、マーリドみたいな溜め息」
 テーブルを挟んで正面に座る年増の女が言った。
「……マーリドって、なに」
 咄嗟に聞き返す。年増の女――吟遊詩人であるシヴィは聞き返されることそのものが想定外だったようで、しばし低く唸りながらマーリドなるものについて思い返しているようだった。
「なんというか、小山のような獣ね。腕のような長い鼻と弧を描くように湾曲した牙が特徴的で――」
「ふぅん」
「近東の森に若干生息していて、アトルガン皇国の決戦兵器としても飼育されてるらしいわよ」
「決戦て、かわいくな……」
「可愛い可愛くないで言えば、確かに可愛くないわね。アンタも一度はアトルガン行ってみればいいのに。きっと世界観広がるわよ」
「なんでしょうねぇ……知人友人から聞いた話を総合すると、随分と埃っぽくて、とてもじゃないけれど私の肌に合う国とは思えないのよね。ほら、私ってシティ派でしょ」
「シティ派、ねぇ……」
 とてもそうには見えないけれど。と言いたげな表情で周りを見渡すシヴィ。みなまで言われずとも分かっている。洗練された都会のイメージとはまるで掛け離れたここは、緑と湖に囲まれた魔法大国――ウィンダス連邦。そして、私とシヴィがいるこの店はスタイリッシュとも言い難い、せいぜい大衆レストラン止まりの賑やかな食堂だった。
 店の名前は覚えていない。それは私が悪いわけではなく、時間によって店の呼び名が変わるというシステムが悪いのだ。ただ、店の裏手、桟橋沿いには調理ギルドがあり、この店の料理はそこで賄われていることもあって、味は相当良い。調理ギルド前のレストランとか、ギルド直営店とか、そういった勝手な呼び名でも十分通じてしまう立地条件も悪い。
「そもそもウィンダスへ来たのだって私の意志じゃないし。黒魔法講義概論の再履修なんて今更ありえない」
「オポオポも木から落ちるといったところかしら」
 褒められたのだと、解釈しておこう。とびきりの溜め息に乗せて、リズは最後の言葉を言い放つ。
「はぁ……どこかに超カッコイイ男か、むちゃくちゃ可愛い女の子か、とびっきり愛らしいマンドラゴラいないかしらねー」


 リズ・アールヴ。
 それが彼女の名前であり、それ以上の意味はない。強いて言うなら、可愛らしい名前だね、と下心丸出しの男に褒められる程度のものだ。
 リズはヴァナ・ディール中央大陸でも指折りのリンクシェルに所属する黒魔道士で、格好いいものと可愛いものと、そして何より酒を愛する。艶やかな黒い髪に、若干鋭利さを感じさせる顔つき。自他共に認めるとびきりの美人だが、言い寄ってくる男はだいたい潰される。容姿さえ良ければ、逆にお持ち帰り。一晩だけのさばけた関係をもう何年も続けていた。
 彼女を知る周りの人間が最も問題視しているのは、そうやって広義に解釈された恋愛対象が男女問わず、見境無いことにある。かっこいい者、可愛い者、綺麗な者。自分が気に入れば、どんな手段を用いてでも――具体的にはバインドであったり、パライズであったり、スロウであったり、スリプルであったり――モグハウスに連れ帰り、翌日やけにすっきりした表情で現れる。
 一番の語り草となっているのは、マンドラゴラを連れ込んだことだ。本人はけろりとしていたが、さすがに全員が引いた。彼女が所属するリンクシェルが世界中に名を轟かせるほど大規模なものであるのに対し、他種族と比較して魔法を操ることに優れた素養を持つタルタル族が全くいないのは、ひとえにリズの問題行動のせいだとされる。
「あれ……私って、そーんなに問題児なのかしら」
 あの後、色々盛り上がってしまい、シヴィと二人で酒を注文し始めたことが悪かった。どちらが言い出したわけでもないが、飲み比べのようなデッドヒートが始まり、今し方、勝利を収めてきたところである。シヴィは店のテーブルで酔い潰れているが――リズもまた、ただでは済まなかった。湧き上がる不快感を覚ますように水の区のゲートを潜って、夜風が下草を浚うサルタバルタへ出る。
「うぅ、気持ち悪……やるわね、シヴィ。私をここまで追い詰めるなんて……」
 昨今、ここまで対等に渡り合える人間に出会うこともなかった。思わぬ好敵手の出現に自然とこみ上げて来る感動のようなものもあったが、同時に吐き気もこみ上げてきた。風が心地よい。心地よいのだが、更に酔いが回ってしまいそうだ。
「ん、誰だと思ったら、リズかい?」
 声は頭の上から聞こえてきた。見上げると、ウィンダス水の区とサルタバルタ平原を区切る城壁の門の上に、リズ好みの美形とヤグード族が肩を並べて座っていた。彼らはシヴィの仲間である。
「……なんだ、アンタたちか」
「随分な物言いだな。小娘」
 と、ヤグード族。奴の名は、ズー・ブシュ・ザ・サイレント。無音の暗殺者として一昔前には随分と恐れられたノートリアスモンスターだったが、ある時を境にぱったりとその名前を聞かなくなって、どこぞでくたばったのかと思いきや、何の因果か、ヒューム族のシヴィに惚れ込んだ様子で、以後、実らぬ愛の求道者をやっているらしい。世も末だ。
 隣のヒューム族ともエルヴァーン族とも取れる超美形は、セルリアン。最もその名前は仮のもので、シヴィに付けてもらったと聞いているが、本名は忘れた。ズー・ブシュは彼のことを真龍などと呼ぶが……まさか、どうしたって真龍族に見えない。何か、そう呼ぶ訳が他にあるのだろう。
「何をしてるの。そんなところで」
「ふん、非常につまらぬことだ」
 ズー・ブシュは立てた左膝の上に肘を乗せて、胡乱げに平原を見渡していたが、もう片方の右手の中では、いくつかの石つぶてをじゃらじゃらと玩んでいた。目を凝らしてみるが、本当に何の変哲もないただの石つぶてのようだ。
 と、目聡く何かを見つけたようで、くわっと目を見開いたズー・ブシュはそのまま石つぶてのひとつを平原の闇に向かって投げ付ける。がつん、と何か衝突音が響いて――何事か逡巡しているうちに、リズの横を息せき切らせた新米冒険者が駆け込んできた。リズや門の上の輩に気付いたようではあったが、本当に命からがらといった様子でそのままウィンダスへ逃げ込んで行ってしまった。
「何……もしかしてゴブリンにでも追い回されていた?」
 リズの問い掛けは正解だったようだ。が、ズー・ブシュはそれに肯定することはなく、
「若さと無謀さは隣り合わせの紙一重か。貴様ら人間は死んだら何にもならんということを学習しないようだな」
「それって、シヴィの言いつけ?」
「馬鹿な。いくらあの女とて、我をそこまでこき使おうなど、許し難いことであるぞ」
 隣で、セルリアンの口が「リズ、正解」と動いた。が、本人がそう思われたくないのであれば、そういうことにしておいても別に不具合は無い。
「ヤグードはモグハウスもレンタルできないだろ。仕方が無いからね、俺も付き合ってるところ」
 と、セルリアンは酒瓶をひらひらと見せ付けた。今は見るだけでリズの吐き気を誘うものだ。その腹いせというわけではなかったが、酔った勢いも相俟って、リズは前から思っていたことをストレートに吐き出した。
「……アンタたちさ。なんでそこまであの吟遊詩人にベタ惚れなの?」
 リズは恩師に呼び出されて、一旦仲間たちと別れてこのウィンダスへ戻ってきた。シヴィたちは、普段は近東の大国アトルガンを拠点にしているらしいが、現在は里帰り中。その最中、ちょうど鉢合わせ、勘違いしたリズがズー・ブシュを燃やそうとしたことから彼女らとの交流が始まったのだが、不可解なことにこの獣人と、異性の目を惹き付けて止まないであろうこの超美形は、何故かあの冴えない年増の吟遊詩人に付き従っている。全くもって理解し難い。仮に体が目当てだったとしても、他にいくらでも良い選択肢はあるだろうに。
(愛……? 馬鹿馬鹿しい)
 昔に比べれば、他のことは大抵許せるようになったリズだが、未だにそれだけは受け入れられない。人は、優しくすれば付け上がり、信じれば裏切られる。
 そんなことないよという人間はたくさんいるが、それはそいつがたまたま目の当たりにしたことがないだけ。
 そんなことないよという仲間もたくさんいるが、それはそいつがたまたまそんな目に遭ったことがないだけ。必要以上に場の空気を乱す必要はないと思うので、それ以上言及することはないが、本当は心の奥底で嘲笑っている。
 花束のプレゼントや回りくどい食事の誘いなんかより、最初から貴女の体が目当てですと言われた方がいっそ分かりやすくて良い。どうせ最後はそこへ行き着くのだから。
「おーい、リズ……?」
 突然、不機嫌を纏い始めたリズに、門の上の二人は肩を竦めるしかなかった。


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 こんにちはこんばんは、しびです。
 久しぶりにあとがきなど書いてみることにします。

 以前、創作のオハナシのところで「若干不幸なまんまのキャラ」と言いましたが、つまりはリズのことです。
 リズについては、前身のExStoriesに譲るとして――

 不幸なままというのには、実は二つの意味がありまして、そのまま生い立ちが不幸で、今も世の中、斜に構えたまま生きている擦れきった人という意味と、割と作者お気に入りの上位に食い込むキャラなのに、リズが好きという声があまり聞けなかったという意味と。
 アレ、後者は完全に趣味ですか。そうですね。まぁいいんだけれどね。ここまでロコツだとダメなのか。無念。
 話自体を18禁にしたいわけではないので、ご了承くださいませ。

 時系列では、『未来世界図絵解環』より更に後の話です。
 そんなに長くなる予定はありませんが、カコルカナカ、テティスレトトに次ぐ番外編第3弾ぐらいのノリです。
 話の都合上、鳥さんは活躍する予定です。龍はお休みかもしれません。吟はもう解放すると決めたので、冒頭のアレぐらいでいいと思ってます。

 なんて、性懲りもなく再び始めようとする作者はここ1~2ヶ月ぐらい、マトモにFF11プレイしていないのですが、だからこそ見えるものも少しありました。
 それではまたしばらくの間、お付き合い頂けると嬉しいです。


 ※オリジナル小説のほうは既に最終章なのですが、全体の整合性取るためにもうちょっと寝かせておきます…

この記事へのコメント

hepon
2009年10月07日 16:58
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
新作キタキタwマッテマシタヨ!

吟鳥龍にまた会えるというだけでwktkなのですよ!
でも今回は主人公は別のようですね。
それはそれで期待しております。
しび
2009年10月12日 11:43
主人公はExでイイ味出してくれた(?)
リズ姐さんです。

龍さん連れていこっかなー。
でもあの人、長らくデュナミスだったしなー。
うむ、やっぱ鳥だけにするか…(意味深)

しばらくお付き合いくださいませませ。

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