0027:FF11小説『とこしえのはなよめ』 5.はじまりの刻

「見た?」
 サルタバルタ平原に戻ったリズは端的に尋ねた。
「何をだ」
 質問の意図を全く理解してもらえなかったようで、当然のようにズー・ブシュは質問を質問で返してくる。
「ウィンダスよ。物凄いことになってる」
 多少苛立ちを覚えながら、リズが付け加えた。
「見れるわけなかろう。魔法陣結界が我の行く手を阻む」
 苛立ちを覚えたのは、奴とて同じのようだ。
「ああん、それぐらい気合いでなんとかしなさいよ。ヤグードのくせに」
 獣人であるからこそ入れないのだ。ヤグードのくせに。という罵詈雑言は理解しかねる。と、もっともらしく喚くズー・ブシュの首には、それこそリズが理解しかねる物体が巻き付いていた。
 物体というか、人である。もっと言うと、子供である。無論、人間だ。普通、獣人を見れば、誰もが――特に幼い子供なんか、恐れて逃げていくものだと思っていたが、どうしてかズー・ブシュのマフラーよろしく首に巻きついていた。あまつさえ、ヤグードを遊具と見立てているのか、手足を器用に使って、地面に落ちないよう首を中心にくるくる回っていた。子供でなければ、屈強な獣人でなければ、首をねじ切らん勢いである。
「で。誰、そのオトコノコ」
 あえて触れなかったのには、訳がある。聞くと、より一層面倒くさいことになるだろうという予感、いや、確信があったのだ。このまま最後まで――具体的な最後がいつなのか分からないが、とにかく最後だ――知らん振りできれば、それに越したことはなかったのだが、観念して、リズは尋ねてみた。
「うむ。まずは勘違いがあるようなので、それを解こうと思うが――」
 と、ズー・ブシュがしどろもどろ言おうとする中、マフラーのような子供が我先に噛み付いてくる。
「うち、おんなのこだもん。しつれいなオバサンね!」
 びしっ。
 リズの中で何かが崩れた。何かは分からないが、明確な何かである。嫌な予感、いや確信はこんなものではなかったが、しかしこれも含まれてはいたのだろう。
「オバサンと言ったことはあっても、言われたことは今までなかったかなぁ? おネェさんは……」
 小娘の頭蓋を鷲掴みにしようとして伸ばした手は容易く空を切る。ズー・ブシュの首を支点に、滑るようにしてひらりと逆側へ逃れたためだ。うっ、と、獣人の呻き声が聞こえる。いくら子供だとはいえ、あんな風にされては首への負担も馬鹿にならないだろう。
 というか、シヴィ以外の人間はどうでもいいと豪語するこのヤグードだ。リズは眠っている奴を叩き起こそうとして、勢い余って蹴り付けてしまったところ、短刀を首筋に突きつけられたぐらいだ。
 女子供とて例外ではないことはもはや疑いないが、何故、されるがままになっているのだろう。
「あー……」
 ……嫌な確信が増大する……
 天晶暦八百六十二年。にわかには信じがたいが、もし本当に自分たちが過去の世界に迷い込んだのだとしたら、そういうことがあってもおかしくはないのだと。ウィンダスの光景を見てからこっち、ずっと否定し続けた思考とは別に、諦めたような論理思考がひとつの可能性を浮き彫りにする。
「実はだな。この娘は――」
「あーあーあー。言わなくていい言わなくていいお願いだから言わないで黙れいいから黙れ」
「そう邪険にするでないぞ。この娘の名はシ――」
「黙れって言ってんでしょーがァ!」
「シヴィと言って、つまり、推察するに」
「うわああああァ!」
 後から思えば、錯乱といっても過言ではなかったのだろう、滅茶苦茶に両手棍を振り回した結果、めしりと音を立ててズー・ブシュの側頭部に切っ先が食い込む。怒り狂ったズー・ブシュが首にまとわり付いていた小娘を引き剥がし、おもむろに立ち上がってしまって、事態はいきなり最終局面を迎える。

 ――サルタバルタ平原の見える範囲が一通り焦土と化し、ようやく収まりが付いた二人は大の字になっていた。やりすぎたかとは思ったが、本当に戦時中であれば、コレくらいたいしたこともない爪跡だ。
 小娘はめくれ上がった土で泥遊びをしていた。その様子を見ていると、急に馬鹿らしくなったのも確かだ。
「なかなか……やるでは、ないか。我と対等に張り合えるなど、そう、滅多にいないものだぞ」
 息せき切らせながら、ズー・ブシュ。
「それは、どうも。あまり、嬉しくないわね」
 憮然としながら、リズは答えた。
 よく言ったものだ。数回の魔法の応酬の中、ズー・ブシュに一片の本気も見られなかったのは、リズの目にも明らかだった。いや、単純な魔法の威力に関しては本気だったかもしれないが、馬鹿正直に真正面から打ち合っただけである。
 これが本当の殺し合いで、魔法だけではなく、なんでもありの戦闘だったならば、リズなど一瞬にして肉塊に化けていただろう。つまりは、それがズー・ブシュの本当の戦闘能力ということになる。それだけの力を持ち得ながら、一介の冒険者、ヒューム族の吟遊詩人に付き従う。ますます訳が分からなくなる。
 そして、そのヒューム族の、将来吟遊詩人は、
「きゃはははは!」
 泥遊びには飽きて、偶然見かけた蝶を追いかけていた。
「ねぇ……」
「なんだ」
「あれは、本当に、本当に、ほんとぉぉに……シヴィなの?」
「……我も一概には、受け入れ難い。根拠には乏しい。だが、何故だろうな。あの独特の憎たらしさ……もとい、特有のふてぶてしさ……もとい、じ、自由な奔放さがな」
「無理に言い直さなくていいわよ」
 誰に気を遣っているのだか。なんとか当たり障りのよい言葉に言い換えようとして苦心するズー・ブシュを横目に、飛んだり跳ねたりしている小娘を一瞥する。確かにどことなく面影はある。あるが、他人の空似とも言えるレベルでもある。
「獣人に両親を殺されたと言っていたな。敵討ちだと、いきなり襲い掛かられた」
「ふぅん……シヴィって、そうだったの?」
「知らんな。過去など、語るような人間ではないからな。もっとも、我も興味なかったので尋ねたこともない。だから、語らなかっただけかもしれぬ」
 ぐずぐずされるよりは随分とましだが、聞かされなければ、そんな素振りすら感じさせないあの娘は、もしかしたら何よりも強く成長していくのかもしれない――
「ちょっと。シヴィ……ちゃん?」
 ちょいちょいと。手招きで小娘を呼び寄せるリズ。
「なぁに、オバ……おネェさん?」
 一瞬、こちらの顔を見て、怯えたような表情を見せる彼女だったが、気のせいだろう。話が早くて助かる。聡い子は大好きだ。
「えーと……将来の夢というか、大きくなったら何になりたいのかしら。やっぱり、吟遊詩人とかに憧れているの?」
「ぎんゆうしじん……? なにそれ」
「音楽を演奏する人」
「ううん。うちはせんしになるの。つよくなりたいよ! おとうさんとおかあさんのかたきをとるの!」
 ズー・ブシュを見やる。
 やっぱり他人の空似じゃないかという表情を込めて。だが、
「そういえば、冒険者になり立ての頃は戦士だったという話なら聞いたことがあるな。相当へっぴり腰だったようだが。すぐに自分には向かないと悟って、白魔道士だったか、他へ転向したようだな」
 最初から明確なひとつの目的意識があって、それに邁進することなど稀なことだろうと、付け加えるズー・ブシュ。
「むぅ……」
 もはや、認めざるを得ないところまで来ているのだろうか。ウィンダスの様相。現在では取り払われたはずの魔法陣結界。サルタバルタの豊かな緑。ここは、水晶大戦真っ只中の天晶暦八百六十二年のヴァナ・ディールであることを。
 だとしたら、便宜上は昨夜、自分たちはあの中年エルヴァーンの術中にはめられたことになる。原因としては、それしか考えられない。
「時を遡る魔法……そんなの、聞いたこともない」
「ひょっとしてと思うのだが」
 再びシヴィに纏わり付かれ、それでも邪険にしないズー・ブシュがなるべく平坦を装うように呟く。
「我は、ただ巻き込まれただけか?」
 と。
「そ、そうとも言うかしらね」
 奴のことだ。てっきり耐え難い罵詈雑言の嵐が飛んでくるのかと思いきや、にんまりと珍しい類の笑みを浮かべて、顎の下を手で擦りながら、そうかそうかと感慨深く頷く。なんとも予想外の反応だ。
「おなかへったー」
 そして、空気を全く読まず、無邪気に言い放つ小娘に対し、さっと持ち合わせのヤグードチェリーを差し出すズー・ブシュを見て、リズは奴の心の内を悟った。
「まさかとは思うけれど」
「なんだ」
「今のうちに餌付けして、その娘を自分好みに育ててしまえば、とか、不埒なことを考えてるんじゃないでしょうね」
「フハハハ! 愉快で仕方がないな。これは真龍の奴に大きなアドバンテージをつけるチャンスだと言えよう」
「そのチャンスも、元の世界に戻れなければ無意味だということをお忘れなくね」
「笑止。ならば、永遠にこの世界に留まれば良いだけのことよッ!」
「……大いに能天気なアンタの頭ン中を羨ましく思うわ」
 戦士になりたい。強くなると言った。どんなに綺麗に見繕ったとしても、少女の原動力、心の中の原風景には、両親を殺された獣人への復讐という動機が根付いている。
 今のシヴィはそれを忘れてしまったのか、それとも分別を付けて前に進むために割り切ったのか――いずれにしても、憎しみに満ちた個人的な感情は見られないけれど、このシヴィはどうなのだろう。彼女はいつかズー・ブシュに刃を向けたりしないのだろうか。
(ヤグードチェリーだけで世界中が平和になれば、それに越したことはないのだけれどね)
 ズー・ブシュから貰った果実を頬張って、美味しそうに食べている少女を見たリズはどこか後ろ暗くそう思った。



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 鳥さんの光源氏計画発動。

 ヤグードドリンク入りのコーヒーなんて凄まじい味がすると思うのだけれど、それ以上にシヴィが過剰反応示すのは、こうやって餌付けでチェリーばかり食わされたからかもしれません。


 以下、アルタナミッションに関する若干のネタバレ?

 バージョンアップで色々追加されていくたび、先々の物語のログをですね、漁るんですけれども。
 (自分で実際進めていかない辺りがダメダメ)


 結局さ。
 歴史外の者どもがあれやこれや、自分の都合のいいように過去をいじくりに来たのがアルタナミッションなのですか?


 水晶大戦を舞台として新しい冒険が始まると知ったときは、そりゃあもうwktkしましたけれども。
 何故、単純に「未来からやってきた勇者の力添えがあって、見事闇王を封印することが出来ました。めでたしめでたし」というストーリーにならないんですかね。
 FF11が長く掛けて育ててきた「水晶大戦」というひとつのキーワードを汚すだけならホント止めて欲しいんですけれど。

 と、辛らつな言葉を投げかけつつ、実は平行世界という設定は大好きなしびさんです。
 実は「そんな話ではない。やってから文句言え」って場合はゴメンナサィ。

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