0035:FF11小説『とこしえのはなよめ』 6.今も昔も変わりなく

「む」
 ほんの僅か、顔を持ち上げてズー・ブシュが呻いた。それより少し遅れて、リズも同じ気配を感じ取る。
 それは、ウィンダスの中からだった。
 大勢の……
「チョコボ?」
 マズイと、直感的に判断したリズはズー・ブシュの首からシヴィを引き剥がし、そして、ズー・ブシュを草むらに押し込む。それとほぼ同時、ウィンダスのゲートから無数の武装チョコボが駆け出してきた。地面が打楽器のように打たれ、足早に北西方面に走り去る。すぐ目の前はもうもうと舞う砂煙。相当、危なかった。
「痛いぞ、貴様……」
 チョコボの編隊が走り去って、草むらからのそりと、ズー・ブシュ。
「ごめん、謝るわよ。でも、目撃されて面倒なことになるよりいいでしょ」
 それが分かっていたからこそ、奴も苦情だけで済ませたのだろうが。
「フン、カンパニエか」
「かんぱに……なにそれ?」
「ヴァナ・ディール中央大陸クォンとミンダルシアで展開される局地戦の総称のことだ。アルタナ連合軍に属する各国軍の間で結ばれた作戦協定を指す場合もあるそうだな? 北西――ここからすぐそこにある監視塔付近にヤグード教団軍が攻め入る情報が入ったのだろう。ここが過去の世界であるというのなら、な」
「北西って、サルタバルタのアウトポストの詰め所があったはずよ」
「そうだ。戦時中はウィンダス連邦軍の監視塔があったのだ」
 薄々、ズー・ブシュの言いたいことが分かってきた。アウトポストの詰め所なんかではなく、監視塔が建っていたならば。
 もう、認めよう。ということなのだと。
 かくして。
 何にがっかりしたのか、何を打ち砕かれたか、若干心の整理が付かなかったが。
 武装チョコボの跡を追って、北上したリズとズー・ブシュ――と、奴に絡みつくシヴィ――の目に映ったものは、高々と聳え立つ灰色の無骨な監視塔だった。その西側で、多数のヤグードと多数の人間が小競り合いを始めている。
「あぁ……」
 意味なんて無かったが、リズは激しく肩を落とした。落胆、だろう。これは。
「さて。これでやることは決まったな」
 さめざめと呟くズー・ブシュ。
「ええ、そうね――」
 リズは拳を握り締め、戦慄きながら呟いた。
「とりあえず。あそこのヤグード、蹴散らしてくるわ!」
「……違うだろう。元の世界に戻る方法をだな」
「うるさいッ!」
 ぴしゃりと一喝し、リズは戦場へ駆け出した。


 リズが走り去って、シヴィと取り残されたズー・ブシュは。
「なるほど。ヤグード教団軍神聖戦闘楽団……ヴー・プクゥか」
 自分にとっては、懐かしき光景とも言える。
 連邦軍監視塔に群がる武装したヤグードの群れ。オレンジ色の大袖と脚絆は当時、教団軍で支給されていた異国のものだ。アトルガン皇国西都アルザビ、東都サジャトラと睨み合う東方諸国伝来の武具で、物質文明に疎いヤグードが唯一取り入れたものだと言ってもよい。まだ数日なのに、アルザビでの一連の出来事がひどく懐かしく思える。
「――小娘。目を閉じていろ」
「え、どうして?」
「いいから目を閉じていろ。さもなくば、目を潰すか、抉り出すか。強行手段に出なければならん」
「う、うん……」
「良いと言うまで、絶対に開けるな」
 目視せずとも、シヴィが瞼を下ろしたのは気配で分かった。それを念入りに確認をしてからズー・ブシュは膝に力を溜めて、次の瞬間、空へと舞い上がる。背中で悲鳴が聞こえたが、それは黙殺。翼を広げて、二、三度羽ばたく。それだけで事足りた。連邦軍の監視塔の屋上が見えてくる。
「む」
 そういえば、考えが回らなかったが、監視塔なのだから当然見張りがいた。見張りのタルタル族は神聖戦闘楽団が押し寄せてきている西側ばかりに気を取られ、こちらには気付いていないのが幸いだった。落下の勢いに任せてタルタル族を足蹴にし、気絶してもらう。顔さえ見られていないので大丈夫だろう。それと同時に着地。
「もういいぞ」
 背中のシヴィをやや乱暴に下ろし、告げるズー・ブシュ。ここなら戦場を一望できるし、下から交代要員が来ない限り、自分が獣人血盟軍だと勘違いされて面倒なことにもなるまい。
「しばらくはここで静観するか……」
 サルタバルタ平原で小指の先ほどとなったアルタナ連合軍の兵士たちを見下ろしながら嘆息する。
「我らヤグード族は空を飛ぶことも可能だが、人前で翼を広げることは非礼の恥知らずと考えている。それでも我は貴様を乗せて飛んだのだ。この意味、じっくりと考えて――」
「うわわわ、すごーいたかーい! おっちゃんすごいねー!」
 少女は興奮のあまり、ズー・ブシュの話など聞いていなかった。
「これだから餓鬼は」
 悪態を吐くズー・ブシュと尻目に、よく分からない鼻歌を唄い始めるシヴィ。それは風に包まれて、眼下に集結する兵士たちを鼓舞するかのように。
「まったく……」
 その将来を予感させるには、十分だった。


「なんなの、なんなのよアンタたちはッ!」
 もはや、八つ当たりともいえる、整理の付かない言葉を撒き散らし、炎を撒き散らしながら戦場に乱入するリズ。
 リンクシェルの仲間たちと一緒に強敵と相対す経験は何度かあったが、本物の戦場という空気を体感するのは初めてだった。傷ついた人間が、ヤグードが容赦なく地面に横たわり、それに気を取られている間にも周りでは無数の長靴と金属音に紛れて、断末魔の悲鳴が上がる。
「くっ……」
 想像以上の光景だ。改めて、ここが戦争時代なのだと知る。
 自分たちは、人間は優勢なのだろうか。それとも劣勢なのだろうか。ひとり、またひとりと襲い掛かってくるヤグードを精霊魔法で弾き飛ばし、人間たちが陣形を組んでいる方へ向かおうとするも、足元に色々転がっているせいでそれも覚束ない。それが武器や防具ならまだしも。
 ぎんっ、と耳を劈く金属音が響いて、どさりと人が地面に転倒する音を聞いた。後方で、剣を弾かれて丸腰になっているエルヴァーンと、そのエルヴァーンに短剣を突きつけているヤグードがいた。周りの武装しているヤグードに比べれば、幾分軽装の印象を受ける。短剣は右手にあったが、左手には弦楽器があった。吟遊詩人か。
「どきなさいっ!」
 狙って氷撃を打ち出すが、早くに察知されていたか、ヤグードの詩人は素早く上空へ逃げ去る。リズの頭上を飛び越えて、背後に着地したそいつは品定めでもするかのようにリズを一瞥するも言葉を発しない。
「お前……?」
 助けたエルヴァーン族には見覚えがあった。ウィンダスのゲート付近でぶつかられた赤魔道士。
「情けない。エルヴァーンのくせに……」
「意味が分かんねぇぞ。エルヴァーンのくせに、とは」
 無論、それでリズが住まう時代におけるエルヴァーンの怠惰に対する不満が伝わるだなんて思っていなかったが。
「じゃあ、赤魔道士。さっさと立ちなさい」
「ふざけんな! 俺には、エルドラスという立派な名前がある!」
「エルド……?」
「ああ、そこで切るな。ジュノの大公様になっちゃうだろ! エルドラス・ミシュケル・ラング・ハイラン・ド・クイーケル・ノッガー、それが俺の名前だ!」
「ながっ。無理」
「ばっさりかよ……」
 多分、彼にとっては馴染みのあるやり取りだったのだろう。表層上は言葉以上の落胆は見られず、弾かれた剣を拾い上げて立ち上がる。
「でも、礼は言っとく。助かった」
「フフフ……」
 そこで、ようやく、ヤグードが口を開いた。妖艶な笑み。女か、こいつは。
「私は、この神聖戦闘楽団軍団長ヴー・プクゥ。威勢いいネェ。ヒュームのお嬢さん?」
「神聖戦闘楽団……ヴー・プクゥ……」
「そうネ。たまには、ヒューム族を材料に使うってのもいいかもしれないネェ?」
「材料、ですって?」
「ああ、そうさ。私らヤグード族が使用する武具の多くには、討ち取った人間の皮や骨や内臓が使われてるのサ。今、私が使っているこの弦楽器もそう。ミスラから削り出した骨や爪を繋ぎ合わせて作ってある。これがまた、いい音を奏でるんだよ……」
 ヴー・プクゥが言う。
「へぇ……」
 義憤に駆り立てられたわけではない。と思う。
 名も知らなければ、いつ殺されたかも分からない丸っきり赤の他人と言えるミスラ族のことだ。だが、リズははっきりと不快感を自覚していた。ミスラの骨と爪を使った管楽器のくだり。そのうっとりとしたヴー・プクゥの恍惚の表情に。
「私にもね、ミスラ族の友達がいるの。一番大切な子よ? なにせ、私がまだ手を出していないんだから――」
 右手を突き出し、手の平を開く。
「魅惑のヴー・プクゥ……笑わせるわね。どんな手を使って神聖戦闘楽団の軍団長にのし上がったか知らないけれど、この詐欺師め」
 リズが生きる時代にも、ギデアスに――獣人の基準で――絶世の美女と称されるヤグードが住んでいる。その名は確かに魅惑の二つ名を持つヴー・プクゥであったが、彼女は詐欺師としても有名であった。神聖戦闘楽団の軍団長がどのような過程を経て、そう呼ばれるようになったのか、リズは知る由も無いが、しかし一瞬で青褪めたヴー・プクゥの表情を見れば分かる。人も獣人も劇的に変われるものではない。どうせ、この時代から不正を働いていたに違いないのだ。
「……少々口が過ぎるようネ? 人間」
「そうね。詐欺師の専売特許だと思わないことよ」
 開いた手の平の上、光に包まれて黒表紙の分厚い魔道書が現れる。リズの意思に呼応して、ひとりでにページがぱらぱらとめくれ始めた。本当にここが過去で、水晶大戦真っ只中なのならば、このグリモアを隠す必要も無い。
「そう思えば、喜ぶべきところなのかしら」
「ヒューム如きが!」
 ヴー・プクゥが一層猛り、弦楽器を奏でる。比較的、ゆったりとした優雅なリズムであったが、奏でられたメロディは赤い光へと可視化され、彼女の取り巻きのヤグードたちを包み込んだ。猛者のメヌエット。対象者の力を飛躍的に増幅させる呪歌。
 しかし、
「遅いのよ」
 取り巻きのヤグードたちがリズを叩き潰そうと殺到する頃、リズは既に魔法詠唱を終えていた。
「黒のグリモア、疾風迅雷の章――爆ぜろッ!」
 右端から順番に炎に包まれて後方に吹き飛ばされていくヤグードたち。取り巻きでいた計六名を吹き飛ばし、周りには誰もいなくなったことに気付いて、ヴー・プクゥは臍を噛んだ。
「……軍学者か。最近、アルタナ連合軍に加わったという賢しき者」
「もう一度、試す? アンタの呪歌が部下にどれほどの強化を及ぼそうとも、それより先に私の魔法が全てを吹き飛ばすわ」
 リズは指先に絡まる赤い魔力の残滓で中空に軌跡を描く。最後には人差し指で弾き飛ばし、挑発するように吐き捨てた。



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オラ、もう、限界だ……

がんばった。がんばったんだよ。

この「とこしえのはなよめ」は番外編ちっくに短く終わらせようって。
目指すは、10話完結だったんだ。なのに、



走り書きしたプロット(完結までのイベントリスト)が、
未来世界図絵以上に膨れ上がっているのは何故だ。



もう。
諦めるしかないのか。

諦めて、長編にしてしまえば楽になるのかッ!



ヴー・プクゥの設定は概ねオリジナルに沿っているハズです。
彼女の密かなファンだったヤー・ハカ(メリーミンストレルで登場)が
現代では破戒僧になっているのもヴーが絡んでたりするのですかね。

カンパニエにおけるヴーの歌は、
マーチで百烈拳並み、ミンネでダメージ一桁連発といったように、
非常に強力なものらしいのですが、如何せん地味ですね。
ディスペルフィナーレダークショットで一発ですし。無念。


さて。

終盤限定的に青魔法は習得したものの、
吟遊詩人だったオバサンに比べると、非常に使いやすいです。リズ。
割と痛快な話にしたいと思ってるのだけれど……

どうだろうな。

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